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「……ハルちゃん……」
今にも涙がこぼれそうな目を見開いて、こだまがハルを見た。
「こだま……」
彼女の涙を見ると、胸が潰されるように痛い。
ハルはドアにもたれかかって、気まずそうな顔をしたクラスメイトたちに向けて呆れたように笑った。
「どうしたんじゃ、みんな葬式みたいな顔して」
「……別に……」
こだまに詰め寄っていた沙由美が目を逸らした。
「ハ……ハルには関係ないじゃろ? 」
こだまの腕を引いて、自分の方へ引き寄せながらメグが言う。
「ハルちゃん……」
メグに腕を取られたこだまが、とても困惑した顔で自分を見ているのが辛い。
『あたしのせいで』
『ごめんね』
『本当にごめんね』
無意識に聞こえてくる彼女の心の声が、切ない。
ハルは視線を落として、廊下と教室の床の境目を見た。
板張りの教室と、緑色に塗装されたコンクリートの廊下がはっきりと分かれている。
こだまを囲う女子たちと、それを横目に見ている男子。そして、まだ廊下に立っている自分。
その間には、教室と廊下の床の境界よりも、はっきりとした線が引かれているような気がした。
ここに入ったらいけん……。そうじゃないと、こだまはまた一人になる……。
それだけは、何としても避けたかった。
「あー。何か熱っぽいわぁ……。わし、今日早退するけん。誰か三木田に言うといてや」
ハルは大袈裟に咳き込んで、額に手を当てながらそう言うと、ドアを閉めた。
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