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ハルが足を踏み出した瞬間、すぐにこだまが廊下に飛び出してきて、袖を掴んだ。 彼女の細い腕が震えているのが痛くて、振り返れない。 「ハルちゃん! 待って!!」 「何じゃ? わし、具合悪いんじゃけど? 」 少しだけ乱暴に腕を振りほどくと、胸が抉られるように痛くなった。 「……ごめん。本当にごめんね……。あたしが、アコちゃんと……メグちゃんに……話しちゃったせいで、こんなことに……」 消えそうな声で言うこだまの頬が、涙で濡れている。 それを見ているのが辛くて、ハルはもう一歩足を踏み出した。 このまま、早く去らなくてはいけない。 そう思っているのに、自分の袖にもう一度手を伸ばそうとしながら、出来ずにいる彼女の心を無視できなくて、足が前に進まない。 「……本当に、ごめんなさい……」 「……昨日のことは忘れてや」 こだまが心から悔いているのは、痛いくらいに分かっている。分かっているからこそ、これがハルに言える精一杯だ。 「どうして?……そんなのやだよ……。あたし、嬉しかったの……だって、だって……あたし……ハルちゃんのこと……」 結局、ハルの袖を掴めなかったこだまの手が、彼女のセーラー服のリボンを握りしめた。 「それ以上言うな。聞きとうない! わしは嫌いじゃ。自分可愛さに、友だちのこと切り捨てたような奴なんか! 昨日のことはお前をからかっただけじゃし、深い意味はない。じゃけぇ、さっさと忘れろやっ!」 「……そんな……」 こんなことしか言えない自分は、本当に最低だと思う。彼女の心は分かっているのに、それを救う方法が見つからなくて、泣き崩れるこだまを置いて、ハルは走り出した。 校庭が、土砂降りの雨に濡れている。 ハルは、昨晩こだまと花火をした場所を見た。 彼女が描いたハートの焼け跡も、雨で綺麗に流れている。 「初めから、なんも無かったんじゃ……」 ハルは、校門の脇の茂みに落としてしまっていた線香花火の燃え殻を拾い、ズボンのポケットに入れてゆっくりと歩き出した。 流れてくる涙も、いつまでも追いかけてくるこだまの嗚咽も、どんどん激しくなる雨音で誤魔化しながら。
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