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ハルが学校を飛び出して行ったあと、取り残されたこだまは、メグちゃんとアコちゃんによって保健室に運ばれた。
ハルに投げつけられた言葉が、こだまの忍び泣きを嗚咽に変え、喘息の発作を連れて来たのだ。
「……こだまちゃん。授業始まるけん、ウチら、そろそろ教室戻るね」
クリーム色のベッドカーテンから遠慮がちに顔を覗かせて、メグちゃんが言った。
「……うん。ありがとう……ごめんね」
「ええよ。うちらの方こそ、何か……ごめんね」
「……うん……」
一瞬遅れてしまったこだまの返事が、予鈴に消された。
「あ……き……気にし……ーー」
「……じゃあ、行こうか。アコ」
気にしないで。と伝える前に、メグちゃんとアコちゃんは、チャイムの音に引っ張られるように教室へ走っていった。
二人がいなくなって、保健室が急に静かになった。
静かな部屋でやたらと大きく聞こえる時計の音、どんどん激しくなる雨の音、辺りに漂う消毒液の匂い。
その全てが、こだまの不安を掻き立てる。
「……苦しい……」
息苦しさが取れなくて、こだまはもう一度吸入薬を吸った。
呼吸は楽になっているような気はするのに、胸の重苦しさが取れない。
そのせいで、こだまがあの街に置いてこれなかった胸の底に溜まった澱みを、嫌でも思い出してしまう。
「……やっぱり、ハルちゃんは知ってるんだ……私のせいで、リッコちゃんが死んだこと……」
そうだよ……あたしのせいで……。
繰り返すと、胸の中がドス黒い粘着質な何かで満たされていくような心地がした。
『自分可愛さに、友だちを切り捨てた』
ハルちゃんの言葉が、ずっと頭から離れない。
「それなのに、あたしは……。あたしは……」
ここでの順調な暮らしのおかげで、いつの間にか忘れようとしていた自分の都合の良さが、怖くなった。これはきっと、忘れようとした自分への報いに違いない。
そう思うと、もう二度と同じ朝を迎えることができなくなったような絶望を感じた。
「もう、ここにも居られないかも知れない……」
あの場にいたみんなも、きっとハルちゃんの言葉を聞いていたに違いない。
クラスのみんなは、ハルちゃんの力を信じて疑わない。
その彼が、こだまの過去にあったことを言ったのだから、みんなだって、きっと疑うに違いない。
そう考えると、さっきのメグちゃんもアコちゃんも、よそよそしかったように思える。
こだまは、よろよろと立ち上がって、職員室へ向かった。
「発作が治らなくて……早退したいです」
そう伝えると、三木田先生はすぐにグランマのカフェへ電話してくれて、ほどなくしてママが迎えに来てくれた。
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