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ママが運転する車は、思っていたよりも早く家に着いた。
大好きなアヴリル・ラヴィーンの曲をもう少し聴いていたかったけれど、今はそれを残念に思う余裕もない。
「こだま……。大丈夫?」
ガレージに車を入れて、エンジンを止めたママの手が、こだまの背中に回る。
呼吸は整いつつあるのに、青い顔をしたこだまが心配でたまらない様子で、ママはとても慎重に、薄いガラス細工のような娘を抱きしめた。
「まだ、苦しい? 」
「……うん」
「……少し、休む? 」
「…………うん」
こだまは、ママに身を預けるようにして脱力した。
ママのエプロンから、ラベンダーの香りがする。
とても温かくて、優しい胸の中で涙をこぼしながら、こだまは、情けなさで胸が潰されそうに苦しくなった。
ママの手が、あの日と同じようにゆっくりと自分の背中をさする。
その手の動きが、嫌でもあの日──リッコちゃんが死んでしまった日──を思い出させた。
「しばらく、部屋で休む」
そう言って自分の部屋に上がってきたこだまは、制服も着替えずに、机の一番下の引き出しを開けた。
電源を切ったまま放置していたスマートフォンを手に取ると、自分の指先が、まるで石みたいに固くなっていくのを感じる。
それでもこだまは、勇気を振り絞って電源を入れ、メッセージアプリを起動した。
こだまのトークルームの数なんて、たかが知れている。
家族と、学校関係の主に三つしかない。
こだまはそのうちの一つ、できれば、もう二度と見たくないと思いながらも、『消したら負け』と自分に言い聞かせ、削除しなかったトークルームを開いた。
それは、リッコちゃんと二人のトークルーム。
彼女が、亡くなる二日前に、突然送ってきた『ごめんね』が、たった一言だけ寂しく浮かぶ異様な画面だった。
「……リッコちゃん……」
こだまは、窓の外を見た。
降り止む気配のない雨が、窓を濡らし続けている。
雫が滑り落ちるのを眺めながらこだまは思う。
そう言えば、あの日もこんなにひどい雨の日だった……。
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