痛みの記憶

2/21
前へ
/153ページ
次へ
いつも一人で歩いていたスクールゾーンを、人気者のリッコちゃんと二人で歩く。 リッコちゃんがランドセルに手を添えてくれているから、とても楽なはずなのに、こだまの気持ちは重かった。 これまで話したこともなかったから、当たり前のように無言が続き、こだまはそれがとても怖くてたまらない。 いつもリッコちゃんを取り巻いているエミリちゃんやレイナちゃんのように、可愛いお洋服屋さんの話や、昨日のテレビの話など気の利いた話題を提供できればいいのに、まだまだ流行なんていうものに疎いこだまには、出来るはずがなかった。 こだまは、話題にできそうなものを必死に探しながら歩いた。 けれど、何一つとして話のタネを見付けられないまま、いつの間にか閑静な住宅地に設けられていたスクールゾーンを抜けて、様々な店が建ち並ぶ商店街に出ていた。 「……あ」 商店街の中で一番大きな交差点で信号待ちしていると、不意にリッコちゃんが向かいの通りにあるピンクのコスモスの看板がとても目立つ本屋さんを指した。 「ねぇ、コスモスさん寄っていい? 買いたいマンガがあるんだぁ」 リッコちゃんはそう言って、顔の前で手を合わせた。 背中にずしりとランドセルの重みがのしかかってきたけれど、こだまの心が一気に軽くなった。 「リッコちゃんも、ここの本屋さんのことコスモスさんって言ってるんだね」 「うん。そうだよ! 看板のせいかな? うちじゃあみんなコスモスさんって言ってるよ」 「あ、それ……うちも同じだよ」 「一緒だね! 」 「……うんっ!」 偶然の一致が、こんなにも嬉しいものだとは……。 「あっ、 信号変わった! 行こっ!こだまちゃん」 信号機が青に変わると同時に差し出された手を、こだまは自然に握り返して、リッコちゃんと二人でコスモスさんに入って行った。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加