痛みの記憶

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その日から、こだまはリッコちゃんのグループに入った。 リッコちゃんとレイナちゃんとエミリちゃんの三人は、クラスで一番キラキラしていて、 みんな口には出さないけれど、女子たちはリッコちゃんのグループに憧れていた。 そんなグループに自分がいることに、こだま自身違和感を感じてならなかったけれど、それも三日を過ぎる頃には納得に変わった。 リッコちゃんは、クラスの女王様。 リッコちゃんが「今日からこだまちゃんは、私たちのグループね! 」と言えば、誰も文句は言えない。 だから、リッコちゃんが「マンガを貸して」 と言えば貸さなくてはならないし、「キーホルダー、二人でお揃いにしよう」と言えば、大事に取っておいたお年玉からお金を出して、日が暮れるまでお揃いのキーホルダーを探さなくてはならないし、グループの誰かが「あーあ、疲れた~」と言えば、スクールゾーンを歩く間は、黙ってリッコちゃんたちのランドセルも持った。 リッコちゃんは、何かお触れを出す前にはいつも必ず「あたしたち、友達でしょ? 」という。 こだまはその言葉に縛られるように、何でもリッコちゃんが言う通りにした。 貸してと言われたマンガが、たとえ読みかけでも、好みのキーホルダーじゃなくても、自分だって疲れていても、何一つ文句を言えなかった。 そういう、『空気』があったから。 グループに入って二週間後、三時間目の休み時間の時にたまたま通りかかった女子トイレの前で、「あの子、利用されてるだけだってわかってないのかなぁ?」と話す声が聞こえてきた。 くぐもった声は、誰のものだったかは分からなかったけど、奥からリッコちゃんの笑い声が聞こえた気がした。 これはもう、決定的だった。 『友達』という肩書きを得るためには、余りにも大き過ぎる対価だと思ったけれど、『いじめられっ子』に降格するのだけは嫌だったから、こだまはその後三年間、時々突然発症する喘息発作に苦しみながら、リッコちゃんたちの『友達』であり続けた。
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