痛みの記憶

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「くすくす……」 「コソコソ……」 立ち尽くす背後から、せせら笑いが聞こえてくる。 視線だけそちらへ向けると、窓際の席で(たむろ)していた、ヒエラルキー中間層の女子四人組が、こだまを見て笑っている。 それを見て、絶対的な恐怖がこだまの両足を掴んだ。 出来たばかりの不安定な集団は、結束を得るために共通の敵を作りたがるものだと、小学五年のある日、道徳の授業『いじめの心理』で先生が言っていた。 クラスに徐々に広がっていくせせら笑いを聞きながら、まさに自分が『共通の敵』にされてしまったのだと気付いてしまった。 昼休み終了のチャイムが鳴り、小さな身体を、更に小さく縮こまらせながら席につくと、カバンの中でスマホが震えた。 嫌な予感に胸を締め付けられながら、エミリちゃんから届いたメッセージを開くと、急に呼吸が苦しくなった。 『強制参加』と一言添えられた、グループトークへの招待。 それが何を意味するのかを考えるだけで、みるみる喉が狭くなって、ゼイゼイと嫌な音を出し始めた。 「起立!」 現国の山内先生が現れて、日直が号令をかける。 みんなが立ち上がると同時に、こだまは床に倒れ込んだ。 こだまは、その日からしばらく学校を休んだ。 なのに、こだまへの攻撃は休まるどころが悪化するばかりで、女子だけで始めた、こだまを誹謗中傷するためだけのグループトークは、彼女が休むようになってたった三日でクラス全員に広がって行った。
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