痛みの記憶

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「ねぇ。こだまちゃんも協力してくれるわよね? 」 ひとしきり話し込んだ後で、エミリちゃんとレイナちゃんがこだまへ詰め寄ってきた。 「こだまちゃんなんて、あの子のせいでいじめられていたんだから、協力しないなんて言わないわよね? 」 「そうよ! やり返すチャンスなんだから!」 彼女たちの言うことに、悲しくも納得する。 けれど、素直に「うん」とは言えなくて、こだまは黙り込んだ。 すると。 「いいわ。協力してくれないなら、こだまちゃんはリッコちゃんの仲間ってことね」 鋭い視線と共に、エミリちゃんが吐き捨てるように言った。 その言葉が、一瞬にしてこだまを縛り上げ、条件反射的に「ち……違う!」と口走ってしまった。 それが決定打となって、こだまは、エミリちゃんを新しくリーダーに担ぎ上げたグループに引きずり込まれていった。 「じゃあ、こだまちゃんよろしくね」 放課後、エミリちゃんとレイナちゃんに引っ張られるままにやってきたドラッグストア。 そこの化粧品売り場の中で、青い顔をしているこだまにレイナちゃんが一本のリップスティックを差し出してきた。 「いい?こだまちゃん、さっき話したようにやってね? もうすぐアイカとレンがあの子を連れて来るはずだから」 「……う……うん……」 ピンク色のリップスティックを受け取るこだまの手が震えている。 ……帰りたい。 こだまの心の中はそれだけだ。 「そう言えば、あの子。そろそろリップを買いに行くって言ってたの。それで、あたしたちにもついて来いって言ってきたから今日の放課後、一緒に商店街のドラッグストアに行くことになってるんだけどさぁ……」 そう言って、昼休みの作戦会議の口火を切ったのはアイカちゃん。 「そこで、万引きしたってことにしたら面白くない? 」 「やばっ! それ超いいじゃん! アイカって神っ!?」 「でしょでしょ? そんで更にその瞬間を写メってSNSで拡散したらもう完璧じゃない?」 「それマジヤバいっ! てかもうその作戦以外ないわ!それでいこう! 」 ──帰りたい……。 リッコちゃんを不幸にする方法を、嬉々として語り合う彼女たちを目にした瞬間から、ずっと思っていた。 けれど、やらなければまたいじめられる……。 その想いに打ち勝つことも逃げることもできなくて、こだまは「行くわよ」と腕を引くエミリちゃんに連れられて、リップスティックと、いつの間にか追加で持たされていたマスカラとマニキュアを手にリッコちゃんとアイカちゃんたちがいるプチプラコスメのコーナーへと近付いて行った。
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