痛みの記憶

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「ほら! こだまちゃんも荷物拾いなさいよ!」 「そうよ! あんたがぶつかったんだから! 」 「ほら!」と言いながら、エミリちゃんがタオルハンカチを握った手で、こだまの手を未会計の商品ごと包みこんだ。 「早くしまって! 」 ──もう、逃げられない……。 こだまは大粒の涙を零しながら、それをリッコちゃんのバッグの中に入れた。 「……ご……ごめんね……リッコちゃん…………」 立ち上がったこだまは、すぐさまその場から走り出した。こだまが店から出ていくのは、予定通りのこと。 『終わったら、こだまちゃんはそのまま退場! あなたがいたらバレそうなんだもん』 エミリちゃんがそう言った通り、この場にいてはボロを出してしまいそうだった。 店から出て行ったこだまを、エミリちゃんたちは苦い顔で見送っていた。 こだまがリッコちゃんに謝るなんて想定外だったし、リッコちゃんが「こだまちゃん!」と、その背中に呼びかけるとは思っていなかったのだ。 「こだまちゃんっ!! 」 リッコちゃんの声に、こだまは振り返った。 そしてすぐに、振り返ったことを後悔した。 リッコちゃんは、二名の女性店員に取り押さえられ、涙を流している。 鳴り響く店の防犯ブザー。 ジリジリと店内に引きずり込まれていくリッコちゃんのその後ろで、知らん顔をして店から出ていく首謀者たち。 電信柱の影に隠れて、マユミちゃんも泣きながらスマホで写真を撮っている。 取り返しのつかないことをしてしまった……。 悔やんでも、もう遅かった。
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