痛みの記憶

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こだまは、全てを打ち明けた。 リッコちゃんの死に至るまでの経緯と、今日、ハルちゃんに言われたことまで、全て。 「そうですか……そんなことが……」 こだまの話を聞き終えたグランマは、静かに頷いた。 「あたしのせいで、リッコちゃんが死んじゃったの……」 「何故そう思うのですか? 」 「あたしが、エミリちゃんたちに嫌だって言えなかったから……。あの時、あたしがきちんと言えていたら、リッコちゃんがあんな目に遭う事はなかった……。ハルちゃんの言う通り、あたしはリッコちゃんを自分の身代わりにしたんだよ……」 こだまは、肩で息をしている。 「でも、こだまはリッコちゃんの死の瞬間を直接見たわけではないでしょう? 」 「見なくても分かるよ……」 グランマは小さく息をついて、こだまの手を包み込んだ。 「いいですか、こだま。それはあくまでもこだまの憶測というものです。 苦しみ抜いた経験から、あなたがそう考えたくなるのも分かります。けれど、それが真実とは限りませんよ。こだまが今言ったことは、思い込みや妄想と何ら変わりありません。妄想に囚われてはいけませんよ。そうなってしまうと、いつか必ず見えてくる真実を見落としてしまうものです。こだまに今一番必要なのは、過去を悔やみ自分を責めることではなく、真実と向き合おうとする強い心を持つことです」 「……強い……心……? 」 「そうです」 「強い心なんて……あたしには……」 グランマは力強く頷いて、そしてこだまの手を優しくなでた。 「じゃあ、まずはこの部屋から出る勇気を出してみませんか? つい先日裏山を散歩していたら、ヤマトキホコリや野アザミがたくさん生えていました。 こだまが採ってきてくれたら、カフェのメニューも華やぐので助かるんですが……」 こだまはとても困ったような顔でグランマを見た。 それから、急に肩の力を抜いてポツリと言った。 「わかった、行ってくる」 「助かります」 グランマは、ようやく泣き止んだこだまの頬にキスをした。 「ねぇ、グランマ。その花、なんていうの?」 こだまは、グランマのエプロンのポケットを指して尋ねた。名前も知らない薄青色の可憐な花は、見覚えがある。確か、前の学校の花壇に咲いていた花だ。 「これは、Forget-me-not です」 「フォーゲットミー…………何? 」 「日本では、勿忘草(ワスレナグサ)というんですかね? 私を忘れないで。という花言葉のお花なんですよ。この花、こだまも知っているんですか? 」 「……うん」 こだまはグランマから目を伏せて答えた。 「リッコちゃんが、大っ嫌言って踏みつぶしちゃった花……」 そして、行ってきます。と小さく呟いて部屋を出ていった。
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