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こだまが裏山へ出かけてしばらくたった頃、ランチ時も去り、静けさを取り戻したカフェのドアが開いた。
「いらっしゃいませー…………」
明るい声で微笑みながらお客を迎えたママの目が丸くなる。
「あ……あの……これをアビーさんに返しに来ました」
「え?……あ、はい」
ずぶ濡れの学生服姿の男の子が、濡れないようにわざわざビニールをかけてある紙袋を差し出してきたので、持っていたお盆を置いてそれを受け取った。
何となくのぞき込んだその中には、今朝アビーが「こだまのお友だちに」と、キッシュを並べていたはずのお皿が入っている。
「アビーさんによろしく伝えてください。……それじゃあ、これで……」
男の子は、会釈してドアに手を掛けた。
「あっ! ちょっと待って」
ママは慌てて男の子の手を掴んだ。
「ねぇ、お昼ご飯は食べた? 」
「……え? ……いや、まだ……」
「ランチが一つ余っちゃったの。 よかったら食べていってくれない? 」
ママはにっこりと笑った。
その笑顔に、男の子は少し困ったように頬をかいて、「じゃあ、遠慮なく……」と笑った。
「あ、よかったらこれ使ってね」
「ありがとうございます」
ママは男の子にタオルを差し出すと、小走りでキッチンに入って行った。
男の子が渡されたタオルで簡単に髪や制服を拭いていたら、すぐにママはプレートを持って現れた。
「本当に余り物で申し訳ないんだけど……」
「いいえ、とんでもないです」
照れ笑いを浮かべる男の子の頬を、水滴が滑る。
それを見たママは、男の子からタオルを奪い取って、わしゃわしゃと彼の髪を拭き始めた。
「もう!ダメよ、こんな雑な拭き方じゃ! 風邪ひいちゃう!」
「うわっ!」
「これでよし!」
一通り水気がなくなると、ママは満足したように腕を組んで得意気に笑った。
「さぁ!食べて食べて! 」
「じゃ……じゃあ、いただきます」
男の子は少し恥ずかしそうに手を合わせて、食事に手をつけた。そしてそのプレートが空っぽになるのを見計らったかのように、ママが紅茶と何かを包んだ風呂敷を持って現れた。
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