23人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう、ホンマにこだまさんには近づかんけん……。ご馳走でした。とても美味しかったです」
ハルは立ち上がって、頭を下げた。
そして、ゆっくりとドアに向けて歩き出す。
ドアに手を掛けようとしたら、ママにそれを遮られた。
「ちょっと待って! 」
「えっ? ……あの……」
「あなたたちに何があったかなんて、不粋なことは聞かない。けどね……」
ママは風呂敷包みを差し出し、そして続ける。
「この島に越して来たあの日、あなたのことを『神さんに会った』と言っていたあの子の気持ちも、どうか考えてあげて欲しいの」
受け取った包みの隙間から、黒いVネックのロンTが見える。
「女の子にとって、初めて好きになった人って、本当に神様に等しいくらいの存在なのよ。…………って、これはこだまには内緒にしてね」
唇の前で人差し指を立ててママが笑う。
彼女が自分の正体をどこまで知っているかは分からないけれど、その裏表のない笑顔からは何も読み取ることが出来なくて、「ありがとうございます」と、ハルはそのままカフェを出た。
「頑張れ……二人とも」
誰もいないカフェの中で、ママの声だけが谺していた。
最初のコメントを投稿しよう!