痛みの記憶

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「もう、ホンマにこだまさんには近づかんけん……。ご馳走でした。とても美味しかったです」 ハルは立ち上がって、頭を下げた。 そして、ゆっくりとドアに向けて歩き出す。 ドアに手を掛けようとしたら、ママにそれを遮られた。 「ちょっと待って! 」 「えっ? ……あの……」 「あなたたちに何があったかなんて、不粋なことは聞かない。けどね……」 ママは風呂敷包みを差し出し、そして続ける。 「この島に越して来たあの日、あなたのことを『神さんに会った』と言っていたあの子の気持ちも、どうか考えてあげて欲しいの」 受け取った包みの隙間から、黒いVネックのロンTが見える。 「女の子にとって、初めて好きになった人って、本当に神様に等しいくらいの存在なのよ。…………って、これはこだまには内緒にしてね」 唇の前で人差し指を立ててママが笑う。 彼女が自分の正体をどこまで知っているかは分からないけれど、その裏表のない笑顔からは何も読み取ることが出来なくて、「ありがとうございます」と、ハルはそのままカフェを出た。 「頑張れ……二人とも」 誰もいないカフェの中で、ママの声だけが(こだま)していた。
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