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こだまと古い鬼の絵本
新しい学校生活は、驚く程に順調だった。
離島であるが故なのか、人数も少なく、こだまのクラスには男子が七名と、女子が四名いるだけだった。
それが、ひとクラスに四十名程度が当たり前だった以前の学校とは比べ物にならないくらい、気楽に思えた。
それに、この学校のみんなは大概の生徒がまだスマートフォンを持っていない。
それも、こだまにとっての安心材料だった。
そのおかげで、「こだまちゃんは、やっぱりスマホ持っとん? 」と、クラス委員のメグちゃんから聞かれた時にも、「持っていない」と、部屋の机の一番下にしまい込んだアレを無かったことにできた。
あっちでは、あんなに長かったのに、ここでの二週間はあっという間に過ぎた。
その間に、こだまの目にも、何となくクラスの勢力関係のようなものが見えて、やっぱり派閥という群れの掟は、どこに行っても同じなんだと多少は落胆した。
それでも、前の学校とは比較にならない程の小規模なそれに、立ち向かう気力は保てていた。
本当に、順調だったのだ。
彼が、あんなことを言うまでは……。
「お前、ホッとしたんじゃろ? 」
彼がこだまの背中にそう声を掛けたのは、六時間目の終わりのチャイムがなる数秒前だった。
こだまは、朝からずっと家庭科の授業のことを憂鬱に思っていた。
なぜなら今日は、来週月曜日に行われる保育園訪問のグループ決めがあるからだった。
黒板に『四人一組』と書きながら、家庭科担当の若くて綺麗な吉村先生は 、「みんな、好きな人同士で組んでいいけんね! 」と、あずき色の眼鏡の下の目をとても優しく細ませて言ってくれたけれど、その言葉は、こだまにとってプレッシャーでしかなかった。
四人一組ということは、こだま以外の女子全員が組んでしまうということもありえるからだ。
「なぁなぁ、どうするー? 」
班の形にくっつけた机に、女子全員で固まって座っていた中で、真っ先に口を開いたのは、女子のリーダー・沙由美ちゃんだった。
リーダーらしく、お誕生日席に腰掛けている沙由美ちゃんは、緩く巻かれたツインテールを揺らしながら、大きな猫目をクリクリさせて、みんなの顔を見回した。
「いつもなら女子全員で組んだらええんじゃけど、今はこだまちゃんがおるけんなぁ……」
渋い顔で言われて、思わずこだまは身を縮こませた。
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