予感

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予感

六時間目、古文。 「はーい! ここ、テストに出るけんなー! しっかり覚えとけよー!! 」 国語教師で担任の三木田先生が、ラ行変格活用についてを力説している。 『有り、居り、侍り、いまそかり』と、目立つように黄色いチョークで書かれた黒板の文字よりも、こだまは、窓の外の方が気になっていた。 七月に入ったというのに、相変わらずの梅雨の曇天から降り注ぐ雨が、容赦なく窓を叩いている。 それがさっきから憂鬱でならない。 明日の土曜日は、メグちゃんとアコちゃんの二人と一緒に、本土へ買い物に行く約束をした大切な日だ。 『来週、島の花火大会があるんよ。水上花火がほんまに綺麗じゃけ、こだまちゃんにも見てほしいわぁ! なぁなぁ、こだまちゃん、 せっかくじゃけん、三人で浴衣着て行かん? 』と、メグちゃんが誘ってくれたのが、事の始まり。 浴衣を持っていないとこだまが言うと、アコちゃんが『ほんなら一緒に選びに行こう!』と、提案してくれたのだ。 友だちと行く、初めてのお買い物。 そんな大切な日が雨で濡れてしまうのは、とても悲しい。 どうか、明日が晴れますように。 こだまは、ノートの端に、てるてる坊主の絵を描いて、心の底から願った。その絵のおかげか、翌日はとてもいい天気になった。 「晴れたのは良かったけど、めっちゃくちゃな暑さ じゃね!」 買い物の途中、暑さに耐えきれず入ったカフェで、かき氷を頬張りながらアコちゃんが言った。 「まぁでも、雨よりはいいじゃん! なぁ、こだまちゃん」 「う、うん。そだね……」 こだまは、パンケーキにシロップをかけながら向かいのソファに腰掛けている二人を見た。 二人とも、とてもオシャレだ。 アコちゃんの真っ白なワンピースがとても眩しい。 ふわふわのくせっ毛の前髪も、今日は編み込みにしてゴールドのヘアピンで留めてある。 学校では真面目そうに見えるメグちゃんも、今日はアイスブルーのダメージスキニーに黒い七分袖のカッターシャツを着て髪は高い位置でポニーテールにしている。 (二人とも、なんだか大人っぽいなぁ。それに比べてあたしは……) こだまも、今日はあのお気に入りの青いワンピースを着てきたけれど、ようやく肩につくくらいまで伸びた髪も、いつも通りに茶色のゴムでひとつ結びにしただけ。 もう少しオシャレをしてくれば良かったと後悔した。 けれど、島の外に出ているんだという非日常感が、彼女を会話に集中させた。 それはきっと、こだまだけではない。 メグちゃんとアコちゃんも、いつにも増して開放的だ。
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