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教室の入り口で拾いあげたのは、女子高生が持つには地味な藍染のハンカチで、イニシャルのCがハンカチの角に刺繍されていた。
「なんでこれが水瀬のだって、知ってんの?」
「えぇー、何でだったかなぁ、忘れちゃった……あ、ユキおはよう〜」
絡まった腕をスルッと抜かれて、嫌悪に似たため息を吐く。
先程のクラスメイトは、バツが悪そうに見つけた仲間のもとへ駆け寄り、安堵の表情を浮かべて群の中へと溶け込む。
お揃いの物を持って、同じような髪型で浮かれて、増殖する事だけに喜びを感じる姿は滑稽なほどで。まるでガン細胞の仕組みを見ているようだった。
そして俺自身もそんな息苦しい生活の中で、「優しくて優秀で、完璧な生徒会長」なんて役割を堂々と演じ切ってるあたり。ガン細胞よりもタチが悪い。
勉強して、内申点を稼いで、良い大学に入る事が〝成功〟なんだと。
教壇に立つ釈迦を気取った教師は、念仏みたいに分かりもしない未来について唱え続ける日常があって。
逃避主義の生徒達は、ただ首を縦に振るだけだった。
こんな生活のどこに、希望や青春があるというのだろうか。
この下らない日常に価値を見出せない俺は、窓際の席から見える蒼穹を眺めながら、空を青く見せているレイリー散乱の事を考えたりして過ごす、実に偏屈な17歳だった。
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