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「えっ! 千秋どしたの!? 水瀬さんと仲良いの?」
水瀬の隣には地獄耳の男子生徒が座っていたらしく、大袈裟に声を張り上げたおかげで教室内は水を打ったように静まり返った。
思考が数瞬停止する。あまりに自分の発言が想定外のことで、答えあぐねていると、
「椎名くんから借りてた傘、家に忘れたから」
どこで幽霊なんてイメージが定着したのか目を疑いたくなる程の、朗らかな笑みをちらりと俺に向けて水瀬がそう答えたのだ。
「え、あ……そうだ。 明日雨だし、返してもらいに行く約束なんだ」
「ふーん」
辻褄合わせに言った言葉で納得したのか、男子生徒は途端に興味を示さなくなり。
静まり返った教室内は再び喧騒に包まれた。
「じゃ、後で」
椅子に座る水瀬は俺の言葉に静かに頷き、先程渡した藍染のハンカチを鞄にしまった。
俺は周囲に悟られない様に息を吐き出し、再び自分の席へと戻る。
ノートを鞄から取り出し、次の授業の予習をする……フリをして。
動揺した心を落ち着かせる事に専念した。
名前が似ている事を思い出したからなのか。
イメージしていた人物像と違っていたからなのか。
それとも、
俺と同じように嘘を吐くのが上手いからだろうか。
明確な事はわからなかったが、
どうやら俺は、水瀬千夏に興味を持ってしまったのは間違い無いらしい。
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