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ベンチに座って5分ほど経過した時、背後から声が聴こえて振り向く。
目の前にずいっと差し出された小豆色に思わず目を見開いた。
「はい、花鳥庵のあずきバー」
少し溶けかけた棒付きのアイスは、量産されているものよりも色が薄かった。
「え……買ってきてくれたの?」
アイスを差し出したまま水瀬が頷く。
受け取ると水瀬の口許が綻んだのが見えた。
「うん。君の心は、ささくれてるからね」
「え?」
何かの比喩なのだろうか。言葉の意味は理解出来なかった。
水瀬はアイスを齧りながらベンチに腰をかける。
「食べないと、溶けちゃうよ?」
ぼうっと水瀬を見ていた視線と飴色の瞳がぶつかる。慌てて口に入れた小豆味のアイスは優し過ぎる甘さで、水瀬の声音は心地良すぎる温度で、
「やめた方がいいと思うよ……タバコ」
このささくれた心とやらの刺々しさが、丸くなった気がした。
「知ってたのか……」
「先週、ここで見かけて……」
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