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限りなく希薄な真紅
不揃いな拍手。そう形容するのが一番しっくりくる。
ボランティアとして介護老人ホームで三月に一回ピアノを演奏する。
フレデリック・ショパン
ノクターン第20番 嬰ハ短調「遺作」
静々とした曲調で始まり、私の脳裏に浮かぶ光景は決まって日没。イタリアのカプリで影絵のように塗りつぶされる街並みに、透明な真紅の球体。
やがて最期の主旋律を終え密やかにデクレシェンドをして終息を降ろす。
覚えている?
瞼の裏にヒリ付くあの日の映像が、思い出すたびに薄れていくから、ここでしか奏でない。
フェルマータの余韻。そして寂寥。
でも、薄れても薄れても、
私の中で消え入らないのは、なぜ?
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