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四
俺はもう、諦めていたのかも知れない。
告白当日。
電車内、打わ合せ通りの場所に座る実と甲斐を遠目に見た。
眠いのか実は船漕ぎ状態で、そのまま甲斐の肩にもたれかかった。
甲斐が実を呼び起こす。
悪びれない実。
別に甲斐に嫉妬しているワケじゃない。
実は俺にも時々、寄り掛かって居眠りをする。
俺以外の人間にもそれをする、俺の知らない実がいる。
数日後。
朝、市ヶ谷と駄弁りながら歩いていると、教室前に甲斐がいた。
「野木崎先輩、あの、この間の、なんですけど、柚流が実にバラしてしまって」
結局あの日、実は誰も選ばなかった。
実がなかなか答えないから、他のヤツが選ばれる前に『適当に答えても意味がない』と、俺がその場を解散させた。
甲斐が答えだと、柚流がバラした。
その甲斐の表情に、沈んだ気配はない。
「で、実はどう反応したんだ?」
「あの、ですね」
「想いが通じたんだね?」
隣で市ヶ谷が顔をほころばせる。
「良かったね」
「ありがとうございました」
笑い合う二人を見ていたら、無性に腹が立った。
これが結末だ、仕方ないと判っていても、甲斐を殴り飛ばしたいような衝動に駆られる。
俺は、必死に、耐えた。
「あいつは誰にでも愛嬌振りまくから、他の奴に勘違いされないように、言っとけよ」
手を振って、教室に入る。
再度感謝を述べる声を聞いたが、後ろは振り向かなかった。
無言で席に着く。
市ヶ谷も黙ってついてきて、席に鞄を置くと俺のところまでやってきた。
「さっきはどうもありがとう。僕、あれ以上何て甲斐君に言ったらいいかわからなくて。野木崎君が早めに切り上げてくれて良かった」
「はぁ?」
忘れていた。
市ヶ谷も実が好きだったんだ。
さっきの甲斐の台詞、こたえてんのか。
俺の気も、知らないで、なんて悠長な感謝述べてるんだ。
市ヶ谷の悠長はここで留まらなかった。
「でも、良かったね。告白上手くいって」
「お前なぁ、『良かったね』じゃねぇよ! 俺はお前に感謝される筋合いねぇんだぞ?!」
全てが上手くいったような、こんな終りは、許せない。
「俺はな、お前ら利用して自分が実に告られようとしてたんだ。賭けをしてたんだぞ?! そんな奴に礼なんか言ってんじゃねーよ!」
「賭け?」
そう、俺にとって、これは賭けだった。
遊びだった。
俺は市ヶ谷や甲斐のように、実を『恋愛の対象』としては見ていなかった。
誰でも良かった。
得ることができればラッキーで、実が一番得やすい位置にいた、それだけだった。
……それだけだったろうか?
わからない。
違う、俺だって実が可愛くて仕方なかった。
途中まで。
いや、今だって、実が好きで、たまらない。
わからない。
苛立った俺に、市ヶ谷は言った。
「野木崎君も、だったんだ……。ごめんね、僕ばっかり、落ち込んじゃって」
「わかってねーだろお前」
俺の非道っぷりに怒れよお前。
他人の気持ちを利用した最悪な、信用できない奴として扱えよ!
実に選ばれずに相当落ち込んでいるのか、俺の悪事など何とも思っていない市ヶ谷。
「慰めてやりてーな」
言うと、暗いツラで市ヶ谷が俺を見る。
「え? 誰を?」
「失恋して落ち込むお前をだ」
「あ、ありがとう」
まだ、わかってない。
俺がどれだけ非道なのか、わかってもらわないと、気が済まない。
「帰り、俺の家寄ってけよ」
実にも、俺が非道だと知って欲しかった。
俺の本当を、知って欲しかった。
了
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