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一
あれは、賭けだった。
「実って、前に付き合ってた人とか、いましたか?」
実のクラスメイトの甲斐は、偶然電車内で会った俺にさりげなく尋ねた。
実のガキっぽさについて語ってた最中だったから、俺も最初は何が言いたいのか察しがつかなかった。
「さぁ、いないんじゃねーか。隠してなければの話だけどな」
「野木崎先輩、前に言ってましたよね、うちの学校で男が男に告白する方法。あれって例えば、一年間一クラスでどのくらいの割合で起こるんですか?」
複数人で告白をして、本物の告白を察してターゲットがそいつを選べば、告白は成功。
別のヤツを選べばターゲットには気がないということで、誰が告白をしたのか言わない。
男の告白を受け入れる気がなければ、ターゲットは誰も選ばない。
失敗しても被害を最小限におさえられる、それが男子校であるウチの学校で隠れた伝統と言われる、同性への集団告白。
「なんだ、実に告白するのか」
「いや、そういうわけでは」
普通の態度で、甲斐は否定する。
「今の話の流れからいくと、そうだろ。もう何言っても遅いね」
茶化すと甲斐は、素直にそれを認めた。
「すいません、そうしたいかなと、思って」
「すいませんってなぁ、何謝ってんだよ。そうだなー、割合なんて統計取れねーから俺は知らないけど、やって成功したヤツを俺は二人知ってる」
「成功、した人がいるんですね」
甲斐が安堵の表情を見せる。
「俺、ダミーやってやるか。段取り付けてやってもいいし」
「……いいんですか」
「お前が良ければな。俺、ダミー何回かしたことあるからさ。あとのダミーは、俺とお前と実と、全員の顔見知りだろ。市ヶ谷とか柚流とか、そんなもんか」
話は結構な勢いで進む。
俺が進めた。
大体を決めると、甲斐は普段より浮ついた声音で謝意を表した。
甲斐と別れると俺は、口許が笑みの形になるのを抑えられなかった。
甲斐を、利用してやる。
告白で実が俺を名指ししたら、実は、俺のモノだ。
甲斐と実はまだまだ付き合いが浅い。
そんな奴より、ガキの頃からずっと一緒だった俺の方が、勝率は高い。
甲斐のような難しい人間を、実が選ぶはずがない。
この勝負、勝てるはずだった。
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