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二
こんな障害があるなんて、思わなかった。
部活が休みで久し振りに市ヶ谷と帰る。
そこで、あの計画を告げた。
「俺とお前と甲斐と柚流で、帰りに波岡駅で実に告る。実を試すから、お前もソッコー不正解だってバレないようにやってくれ」
市ヶ谷はすぐには返事をしなかった。
当たり前か。
こんな話、突然されれば戸惑って当然だ。
市ヶ谷は二・三度ためらって、溜め息をつくように答えた。
「僕は参加、したくない」
「あぁ? なんで」
理由が判らず無遠慮に問い返す。
市ヶ谷の答えは、俺には予想のつかないものだった。
「だって……、僕も実君が、好きなのに、他の人の協力はできないよ」
途端、俺は無性に腹立たしくなった。
何で市ヶ谷まで。
市ヶ谷を参加させるべきか、させないべきか。
「聞いてないぞ、何で実が好きなんだ?」
市ヶ谷はさっきよりも言い難そうに口を開く。
「いつからか判らないけど、そんなに会ってる訳じゃないけど。野木崎君に話をよく聞くから、それで」
俺の、話?
「時々会うでしょう? そうすると、話の通りだ、明るくて優しいなとか、思うんだよ」
俺が自分で確率を下げていた。
自分の愚かさに苛立ちを感じたが、同時に微妙な嬉しさもあった。
市ヶ谷は実のことを良く思っている。
俺の言葉を信じ、実の本質に惚れる。
悪い気持ちではなかった。
「わかった市ヶ谷。なぁ、もし告白で実がお前を選んだらどうする?」
「そんな訳ない」
「いや、実はお前のこと褒めてるだろ。親切だ、上品だ、親しみ持てるって言ってるじゃねーか」
「けど」
「可能性はある」
市ヶ谷も甲斐も、実に選ばれる可能性はある。
甲斐には勝てると思っていたが、付き合いが浅くてもあいつらは仲がいい。
それは、相当相性がいいってことじゃないのか?
俺が選ばれる確率は、当初の予想よりだいぶ低いのかも知れない。
「……わかった、ダミーになるよ」
市ヶ谷が可能性という言葉に惑わされたのか、俺の提案に賛同した。
俺は、自分が選ばれる可能性が減るのを自覚しながら、市ヶ谷に言った。
「ダミーじゃない、お前も正解だ」
「え?」
「もしお前が選ばれたら、甲斐には遠慮なくお前が実に告ったことにしろ。実がお前のことを好きなら、そっちのほうが実の為だ」
親切心なんかじゃなかった。難易度が高い方が、面白い。
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