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秘書室に戻ると、今度は泊さんがソワソワした様子で待っていて、私を見ると立ち上がった。
「社長、なんて?」
「……まあ、有無を言わさずで」
「それで、受け入れたの?」
「……仕方ないじゃないですか。社長が嫌だって言うのなら……」
そう、この会社にお世話になっている以上、社長の意志には従うしかない。
私はため息とともに席についた。
「ごめんな、片瀬ちゃん……」
申し訳なさそうな声に、私ははっとして泊さんを見上げた。
また背負いこんだような顔をしているのを見ると、自分の落ち込んだ気持ちなんて後回しになる。
「ううん、泊さんのせいじゃないですよ。大丈夫です。むしろ巻き込んでしまってすみません。社長に話してくださってありがとうございました」
「片瀬ちゃん……」
これは誰のせいでもない。私に定められたことなのだから、受け入れるしかないのだ。
「仕事終わったら、飲みに行くか?」
泊さんが伺うように言う。
「ありがとうございます。でも、今日は遠慮しときます。近いうちに、拓ちゃんと三人で行きましょう」
その時、澤口部長が秘書室を覗いた。
「あ、部長、どうぞ」
手で促すと、澤口部長は片手を軽く上げて微笑んでから社長室へと進んで行った。
その姿を見届けながら、改めて思う。
私はこの仕事が嫌いじゃない。むしろ、目の前の人の役に立てているとはっきり実感できるこの仕事が、好きなのだ。ずっとずっと、好きだから続けて来られた。それだけは間違いなかったと、信じられる。
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