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「いいじゃん。お前みたいな明るい子になるかもな! あー、なんかすげー嬉しい。良かったな、晃輝!」
そう言うと、晃輝は急に力の抜けた顔になって、涙を滲ませた。
「亮弥……」
「何泣いてんだよ!」
「だって、亮弥が俺のことでめちゃくちゃテンション上がってくれたから……、嬉しくて……」
「当たり前だろ、そんなの! お前に子供が生まれるんだから」
「ありがとな、……俺、元気な子を産むわ」
「お前じゃねーわ」
晃輝は目元を指で拭いながら、笑った。
ふいに、高校の教室で晃輝の机に腰掛けて、行儀悪く開いた足をぶらぶらさせている戸田さんと、楽しそうに話している晃輝の姿が頭をよぎる。
二人に幸せな未来が待っていて、本当に良かった。
「で、お前のほうはどうよ、順調か?」
「あ……、いや、まぁ……」
「何だソレ。苦笑い? 照れ笑い?」
「まあ、座れよ。お前ココアでいいの?」
「おう」
俺はキッチンに行ってマグカップを二つ取り出し、続いてココアを探したが、いつもあった場所にも、その周辺にも、見当たらない。
「ココアねーわ」
「あー、さすがにルリちゃん達二人じゃ飲まねーか」
「ぽい」
俺が家を出て、数年後に姉ちゃんもいなくなって、次第にウチは両親二人暮らし仕様になっていってる。例えば洗面台の歯ブラシを置いてある位置が変わっていたし、当然二本しかない。玄関にやたらと並んでいた靴もスッキリと片づいて、毎日二つのモードで回していた洗濯機も、洗濯物が少ないので日替わりで交互に回すようになったらしい。母の得意のだし巻き卵や、鍋いっぱいのカレーもほぼ作らなくなったそうだ。
ココアが無くなったのを見て、あれは俺達のために買ってくれていたんだと、改めて気づく。と同時に、これまであるのが当たり前だと思っていたものが、両親にとってさえ当たり前ではなかったと知って、なんだか妙な感覚になった。
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