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それに、この判断の速さ。
社長は三代目だ。祖父の代で事業を立ち上げ、息子である父親が継ぎ、そして社長が受け継いだ。
それでも、元より用意されていた社長の椅子に甘んじることなく、幅広く勉強し、事業を改善・発展させてきた姿勢を、私は尊敬していた。
何より、各所から提示された情報を受けて、最良の道を決める判断の速さと的確さは、側で見ていて感動するほどで、経営者として心から尊敬し、憧れてきた。
だからこそ、社長のために尽くして来られたのだ。
でも、それとこれとは話が別だ。
私の全てを込めた願いに対し、悩むことも熟慮することもなく、ものの数分で却下の結論を出してしまった。
しかもその理由は、結局自分の都合によるもので、私の意志や人生は考慮に入っていない。
……わかっている。
所詮他人だ。
人間なんてそんなものだ。
恋人でも、親兄弟でもそうなのだ。
ましてや、会社の上司なんて。
「そうですか……、わかりました。提案のほうは、ぜひよろしくお願いします。あの、できれば出所がわからないように」
「あ、そう? じゃあ匿名で。それじゃ、引き続きよろしくね」
「……失礼いたします」
私は社長室を出て、すぐに社用スマホを取り出した。
「あ、部長、片瀬です。すみませんお待たせしました~。これから入れます? はい、お待ちしています」
そしてもう一度社長室をノックして、
「社長、澤口部長がお話があるそうで、これからいらっしゃるそうです」
「あ、そう、どうぞ」
「はい、お願いいたします」
いつもどおりの明るい声と笑顔が自然に出る自分に、嫌気がさした。
でも、これが私の仕事だ。
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