第十部 二 踏み出す一歩

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 仕事を終えて、泊さんと一緒に会社を後にした。  二人で駅まで歩きながら、立ち並ぶビル群を見上げ、ひとつ大きく呼吸した。  夜の色に変わろうとしている建物の表面には、四角い灯りが整然と並んでいる。ブラインドが開いた四角の中には、書類棚や人影が見えている。たくさんの人が、この四角の中で各々の思いを抱えながら忙しく働いている。 「暖かくなったなぁ」 「ですね。もうすぐコートも要らなくなりそう」 「片瀬ちゃんお花見するの?」 「まぁ……、宴会はしないですけど、見るには見ますよ。隅田川沿いを歩いたり、上野公園とか……」 「ああー、そっか隅田川ね! やっぱり綺麗なの?」 「来たことないんですか? 都民なのに」 「俺は西側だから」 「まぁ、桜はどこでも見られますしねぇ。でも墨田区側の堤防沿いはずーっと桜が並んでるので、晴れた日に歩きながら見ると気持ちいいですよ。私は宴会派じゃなくて桜を凝視する派なので、ああいうところだと一人でも浮かなくて好きです」 「凝視って」  そうこう話してるうちに、駅の入口についた。 「それじゃ、おつかれさまでした」  階段を下りる前に、泊さんを見送ろうと足を止めてお辞儀をすると、泊さんも立ち止まった。 「あ、片瀬ちゃん……」 「はい」 「あまり落ち込まないでね。俺は、片瀬ちゃんが留まってくれて、嬉しいから」  それを聞いて、切なさに胸が痛んだ。 「大丈夫です。ありがとうございます」  精いっぱいの微笑みを見せる。  でも私の心は、もう決まっている。  これは私にとって賭けだった。そして良くも悪くも、結果はもう出たのだ。  ここに来るまで、長い時間を費やしてしまった。  これまでの人生を踏まえて、これからの人生をどう生きるか。  いよいよ私にとっての最善へ、一歩を踏み出す――。 〈続く〉
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