第六部 三 不都合

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「この前同期でランチしたんです。そしたら愛美が、優子さん彼氏できたって言うから、私ビックリして。社内で優子さんのこと一番知ってるのは私だと思ってたのに、なんで愛美が先なんですか~!」  実華ちゃんはタンタンタンタンタンとテーブルを叩く。 「お、落ち着いて、実華ちゃん」 「誰なんですか? どこの部署の人? 愛美に聞いてもはぐらかされるし……、優子さん、愛美はもう知ってるんですか? 誰が優子さんの彼氏なのか!」 「ちょっと待って。ね、ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど、実華ちゃんと愛美ちゃんって、仲良しなの?」 「仲良しですよ。同期の中でも愛美とは気が合って、プライベートでもよく会うし。だからこそ、悔しいんです! 私だけ知らなかったのが!」 「そ、そうなんだ……。ごめんね実華ちゃん、私が早く言わなかったのが悪かったね。ただ、ちょっと言えなかった事情があって……」 「愛美には言えるのにですか?」  不満そうに唇を突き出す実華ちゃんに、私は困ってしまって軽く息をついた。 「あのね、実華ちゃん。実はね、私がつき合ってる人って、社内の人じゃないのよ」 「えっ、違うんですか?」 「あのね、その、実は……、愛美ちゃんのね、弟さんなの」 「えっ!!」  さすがに予想しなかったのか、実華ちゃんは大きな目をさらに見開いて絶句してしまった。 「だから、その、必然的にね、愛美ちゃんには早く情報が行っちゃったっていうか……」 「愛美の弟って、超イケメンだけど顔だけが取り柄っていうあの……?」 「誰が言ったのよそんな酷いこと。……愛美ちゃんか」 「なんか、同期の子が昔愛美の弟を見たけど超イケメンだったって言ってて、それを聞いた愛美が“あいつ顔だけが取り柄だから。中身は根暗で人見知りで趣味は漫画だけだから”って言ったんです。それで、顔だけやたら恵まれた引きこもり漫画オタクを想像してますけど」
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