第六部 三 不都合

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 皆のグラスはちょうど新しいのが来たところなのか、どれもたっぷり入っていたので、私は自分のカクテルだけ頼んで、泊さんの隣に座った。 「拓ちゃんは?」 「拓海、今日ダメだった! 奥さんの代わりに子供ちゃん見ないといけないって」 「まあ、急だったから仕方ないですね。拓ちゃんとはまた今度三人で行きましょう」  拓ちゃんこと中野拓海(なかのたくみ)は三十代半ばの男性秘書で、隣の部屋のマネジメントと補佐を務めている。総務でも二年くらい一緒だったから、これまた長いつき合いだ。後輩というよりは、同僚という感覚かもしれない。 「ところでなんでこんな合コンみたいな編成になったんですか?」  小声で聞くと、 「三宅が仕事終わってなかったから、ちょうど帰ろうとしてたこいつらを“秘書との飲み会来るか?”って誘ったの」 「やることが適当なんだから……」 「だって~、おじさんばっかり揃えたら、みんな退屈するでしょ?」 「その配慮は良いんですけどね。そこまで考えたなら、若い子達に自由に話させてあげたらいいのに。すぐ自分が前に出ようとするんだから」 「片瀬ちゃんは厳しいなぁ」 「泊さんの詰めが甘いんです」  そもそも新年会をやりたかったのなら、大人しく秘書室メンバーだけでやったほうが内輪の話で盛り上がれただろうに、どうして敢えて他部署の若い男性を誘うのか……。自分が楽しく飲みたいのか、女の子達を楽しませたいのか、泊さんの行動は意図がごちゃごちゃしてよくわからない。  おそらく両方なのだろう。気持ちが先に先に行っちゃうだけで、悪い人ではないのだ。  普段の仕事でもだいたいそんな感じだ。上司がちゃんとしてないから、嫌でも気が回るようになるし、機転が利くようになる。  私は会社でいつも周囲のフォローに追われている。まあ、秘書はそういうものだとも思っているけど。社長周りの緩衝材であり潤滑油。調整役なのだ。
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