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返事もそこそこに、電話で社長と会話を始める泊さん。私だけ男の子達に手を振って見送りながら、これから社長のとこか、と小さく息をついた。
「なぁ~んちゃって。ウッソだよーん」
「はい?」
泊さんはスマホを耳から話して、
「あんな若造が片瀬ちゃんを誘うなんて十年早いっ!」
「……泊さん……」
私は呆れかえってしまった。よくもまあ、あんなに息をするように嘘がつけるものだ。
でも、おかげで助かった。こういう悪知恵による対処は私にはできない部分で、泊さんの得意分野だ。
「あれ? もしかして、行きたかった?」
「いえ。助かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして! 片瀬ちゃんほとんど食べてないでしょ? 何か食べて帰ろ!」
正直に言うと、早く帰りたいなぁと思ったけど、テーブルの隅でカクテルを飲んでいただけだった私は、泊さんの言うとおりお通ししか食べていなくて、お腹が空いていた。
どうせこの後、何か買うなり一人で食べて帰るなりするのなら同じことだからと、泊さんともう一件行くことにした。
二人で向かった「風見亭」という小さな和食居酒屋は、泊さんの行きつけで、六十歳くらいの女将さんが美味しい小料理をつまみに出してくれるアットホームな雰囲気のお店だ。
「あらあ、泊さんいらっしゃい」
「おお~、女将久しぶり。片瀬ちゃんに何かごはん出してあげて!」
そう言いながら早速カウンター席に座り込んでお酒を頼む泊さん。私は女将さんに軽く頭を下げた。
「いらっしゃい美人秘書さん。久しぶりねぇ」
「お久しぶりです。すみません、泊さん酔っぱらってて……」
「いいのよ、この人が酔っぱらってない姿なんて、見たことないんだから」
女将さんはカラカラと笑った。
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