第六部 三 不都合

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 和え物やきんぴらなどのお通し三品に、揚げ出し豆腐と、炊き込みご飯を出してもらった。飲み物は、黒糖焼酎のお湯割り。  泊さんは女将さんにオススメされたワカサギの天ぷらを、お酒の合間にちまちま食べている。  ここのご飯は美味しい。よく自宅で料理するときの参考にさせてもらっている。お豆腐が一口大になっている手間のかかった揚げ出し豆腐は特に気に入っていて、私も家で作る時はこのサイズにしている。 「片瀬ちゃん、ごめんなー……、ちゃんと能力活かしてあげられなくて……」  私がごはんを味わっている間に、泊さんの酔いは更に進んだようで、二人で飲んだときのお決まりの話が突然始まった。 「またその話ですか、もういいですからそれは。泊さんのせいでもないし。ほら、天ぷら食べてください。冷めちゃってますよ。天つゆもらいましょうか?」 「いいの、塩で」  泊さんはワカサギに箸を伸ばした。 「女将ぃ、この子ねぇ、ものすごく仕事できるのよ」 「はいはい、そうなのねぇ。頭良さそうだものねぇ」 「やめてください、変なこと言うの。すみません女将さん」 「俺ねぇ、この子のレポート見たんだよ。本社来たときの。すごいんだから。会社に必要なの、こういう人は!」 「いやいや、十年以上前の話されてもただの恥なんですってば」 「アハハ。よっぽど印象強かったのねぇ」  女将さんはこの話を何度も聞かされているのに、温かく対応してくれている。それが余計に申し訳ない。 「でもなぁ~……、社長が片瀬ちゃんお気に入りなのよ。片瀬ちゃんにお世話されたいの、社長は! だからずーっと秘書に縛りつけちゃって」  私はこれまで、何度か泊さんに異動の相談をしていた。もっと直接的に会社の戦力になれる、広報とか、営業戦略とか、経営戦略とか、そういう仕事がしたかった。
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