第六部 二 実家にて

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 父親は二つ年下で、会社勤め。穏やかでお茶目な面もある、毒気のない人だ。この人が母親と対立しないからこそ、ウチは円満に回っている。  青山家の主導権は圧倒的に母親にあり、父親はほぼ同調しながら場を茶化す役割だ。もっと父親らしく威厳も見せて欲しいと思いながら育ったが、今となってはこの人の包容力には頭が下がる思いだ。  顔もほぼ中身どおりで、母親はキツめ、父親は優しい顔をしている。母親の顔を父親の顔で二割薄めたのが俺、五割薄めたのが姉ちゃんという感じだ。 「お昼ごはん食べるんでしょ?」 「あー、うん。二人とも今から?」  俺はコートを脱いで椅子に座った。 「朝がゆっくりだったから、そろそろ準備しようかなと思ってたとこ。まだお節の残りもあるのよ」 「そんじゃそれ食べる」 「お雑煮もできるけど」 「食べる」  母親はキッチンに行ってエプロンをつけた。昔からバリバリ働いているのに、ごはんはキチンと作ってくれる人だ。 「姉ちゃん来たの?」  父親に聞くと、 「うん、隆也(たかや)くんとね」 「そうだろうね」 「もう会うの何度目かだけど、やっぱり緊張するね。気を遣うというか。今年は向こうのご両親と年賀状もやり取りしてね。なんか、慣れないよね~そういうの」  眉を下げて笑う父親を見て、そんなものかと思った。人づき合いは会社で慣れている人だと思っていたけど、やっぱり娘の彼氏となると違うものなのかな。 「大変だね」 「亮弥はまだいいからね、結婚とか。お父さん頭が追いつかないから」 「まだそんな段階じゃないよ」 「どんな段階なのよ」  キッチンから母親がすかさず声を張る。 「まだつき合い始めたばっかり!」 「一緒に年越すくらいなのに?」 「別に、年くらい越すよ」
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