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ロクサーヌ (その4)
朝が来た。私たちのキャラバンは東に向けて出発した。ラクダ3頭とロバが5頭。あと私たち人間が20人。小さなキャラバンだ。以前なら安全のためにもっと大きなキャラバン隊を組んでいたはずだ。でも今は、目立ってはいけない。アラブ人に襲われるからだ。ここから敦煌を目指すのだが普通ならザラフシャン川に沿ってまずフェルガナへ行く。しかし、頭の中の私が言う、その道を通るなと。私はご主人を説得して北東のタシケントへ向かう。そこからセミレチエにあるソグド人植民都市に行く方が安全だと。タシケントでロバを馬に交換する。北方の草原の道では馬のほうが良いのだ。ラクダのポーともお別れだ。もう私には、サマルカンドの思い出は何もない。新しい人間として出発するのだ。名前も康国(サマルカンドのことを中国ではこう呼んでいた)出身の碌山として生きる。女ではなく男として。ところで、なぜ私は生きるのだろう。見知らぬ国へ行って何がしたいのだろう。ただ今を生き延びるため?死にたくはない、怖いから。殺されるのも嫌だ、自分の生死を他人に決められたくない。もっと言えば自由に生きたい。今はそれができないし、自由になって何をしたいのかもよくはわからない。けれど、今はわからないが、いつか分かるかもしれないし、とにかく他人の思い通りにされるのは嫌だ。そのために、今は耐える。敦煌を目指して歩いてゆく。
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