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私は傘職人。
注文を受けて、その人だけの、世界でただ一つの特別な傘を作る。
『自分だけの世界で1つしかない特別な傘』
そんな特別な傘だから、注文を受ければ、その人の好みだけではなく、性格や生き様まで、事細かに聞き込みをする。
そうして出来上がる傘は、ほとんどの注文客が満足し、中には再び注文をしに来る人もいる。
今、私の手元にある完成間近のこの傘の注文客も、そんなリピーターの一人。
一本目の時は、確か三年前…
冷たい雨が降る秋の初めにやって来た。
私のことは人から又聞きを繰り返して知ったらしい。地図の描かれた小さなメモを握り締め、冷たい雨にその身をびっしょりと濡らして、店へと入って来た。
「世界で一つだけの、私の為だけの傘を作って貰えますか?」
髪から滴り落ちる水滴を拭うこともせず、その男性は私を期待に満ちた目で見ていた。
私の作る『世界で一つだけの傘』の本当の意味を知り、理解した上でこの店に来たようだ…
「まずは、あなたのこと、傘に求める事、色々とお話を聞かせて下さい」
私は棚からタオルを取り出して、その男性に差し出した。
『ありがとうございます』とタオルを受け取った男性は、自分の望みが叶うと知り、満面の笑みを浮かべた。
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