6 弟

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6 弟

 絵里奈から葵のお迎えを頼まれることもなく、いつの間にか梅雨も明け初夏になっていた。颯介は早苗のことをなんとなく気にはしていたが、用もないのに保育園に行くこともできず、かといって本格的に行動を起こすほどでもないので時間が過ぎるのに任せていた。  仕事を終え帰宅しシャワーを浴びた。颯介は鮮魚を扱っているため常に生臭さが付きまとう。もともと釣りが好きで魚を扱う事には抵抗がなく、父親の口利きで魚市場で働きだしたのだが性には合っていた。 ただし一日仕事をすると魚臭さがしみ込んでくる。潔癖なたちではないが、市場から離れると匂いが辛いので必ずシャワーを浴びるのだった。 「あー。さっぱりした」  まだまだ日は高く家でゴロゴロする気にはなれない。日曜日なので直樹がいるようだ。直樹の部屋をノックする。 「どうぞ」  直樹はパソコンに向かったまま返事をする。 「おっす。今日は家にいるのか」 「まあね」 「最近暇なんだけど合コンでもしないか?」 「兄弟でかよ」  直樹は笑った。 「やっぱだめか」 「しばらくいいよ。一人いる方が楽だしね」 「淡白だなあ。」 「今度の相手はどんな人?」 「え。いやあ。保育士」 「変わったところ狙ってんな。日曜日は休みだっけ」 「公立だからたぶんな」 「珍しくのんびりしてるな」 「うーん。なんか固そうだし真面目そうだし。絵里奈にやめろって言われてるしなあ」  直樹はパソコンから目を離して言った。 「絵里奈さんが止めるくらいなら、うかつに手は出せないね」 「そうなんだよな。でもいい女でさあ」 「いつもそんなこと言ってるけど……」 「今度はいつもと違う気がする」 「ほんとかよ……」 「たぶん……」 「まあ、そんなに真面目そうなら日曜日なんか図書館とかにいるんじゃないの。近所のさ」 「ほー。お前たまにはいいこと言うな。行くなら中央図書館だな。ちょっと行ってくる」 「いってらっしゃい」  颯介は元気よく飛び出していった。(うーん。兄貴はいつも元気だな) 直樹は信じられないというような顔で颯介を見送ってまたパソコンに向かった。
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