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御前のおまえと
「今日はあっちいなー。アイスでも食ってみてえもんだ。おい、おまえ。アイスって知ってるか?」
「ん?アイス?あぁ、人間どもが夏になるとしゃぶってる棒切れのことか。」
「ちがうわ。その棒切れの先についてんのがアイスってやつなんだよ。」
「へぇー。おまえ食ったことあんの?」
「馬鹿にしてんのか。あるわけねぇだろ。」
初夏。こんな会話をしているふたりがいた。正確に言うとにふたりではない。2匹である。人間からすれば2匹と言うよりも2つの岩である。狛犬と獅子である。神社のおみくじについで2番目の人気を誇る彼らは今やアニメのキャラクターにもなるほどだ。
「おい、水浴びはまだなのか?」
「先月したばかりだろ。あと1年後ぐらいじゃないのか。」
「ったく。こんな暑い中に放置しあがって、宮司の野郎。熱中症だぞ。人間だったら救急搬送されて死んでるぞ。まぁ、いいや。1番かわいい子に水浴びとブラッシングしてもらったからな。」
「まだいい方だぜ俺たち。5年ぐらいして貰ってないやつもいるらしいぜ。」
「まじかよ。きったねぇなー。苔だらけじゃねぇか。」
ふたりの会話は日々こうである。くだらないことをよく話す。夏祭りがあるらしい、台風が来るらしい、かわいい子が巫女さんのバイトに新しく入ったらしい、などなど。そんな中、やはり1番盛り上がるのは人間達の話題である。神様をお守りするようなもの達には到底見えない。そんなこと気にせず、今日もまた2匹は、いや、ふたりは話しているのである。
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