僕の町の傘屋さん

　僕の町の傘屋さんは、とても変わってるんだ。店の中にはヘンテコリンな傘ばかりが置いてあるんだよ。

　君は、この町に来るの初めてなんでしょ？　だったら、僕が今から案内してあげるね。

　まず、入ってすぐのところには、チョコレートや、アイスクリーム、ホールケーキなんかの傘がある。

　開くとプワァ～ンと甘い香りが漂ってきて、子どもたちに大人気なんだ。お菓子の傘は、本当に食べられるんだよ。

　店のおじさんに、食べさせてもらったことがあるから知ってる。どれもこれもとっても美味しいんだ。

　ただ、雨が降ったときは要注意かな。チョコもアイスも、生クリームもみんな溶けてきちゃうから。しかも、公園の地べたに、開いたまんま置きっぱなしにしちゃったら、アリの行列ができちゃうし……。

　あ、それとね、いくら本物のケーキみたいでも、傘の上にロウソクなんか立てちゃダメだよ。燃えちゃうからね。

　他にも変わった傘はたくさんあるよ。こっちにあるのは、お花畑なんかの傘。

　ほら、これはヒマワリの傘だし、こっちは菜の花畑、これはチューリップ、お花見を楽しみたいなら、この桜吹雪の傘なんてどうかな？　開くと桜の花びらが舞い散って、すっごく綺麗だよ。

　あ、そっちはバラの傘だね。バラの傘も綺麗だけど、柄の部分のトゲには気をつけてね。

　お花畑の傘は、草花のとてもいい匂いがするけれど、外で開いたら、芋虫毛虫に蝶々やバッタ、ミツバチなんかも寄ってきちゃう。虫が苦手な人はダメかもね。

　あ、でもスズムシやコオロギとかの秋の鳴き声を楽しみたいなら、ススキ野原の傘なんかいいかもしれないよ。

　他にはね、そうだ！　山の傘とかもあるんだよ。

　ほら、これこれ。この真っ白くて、てっぺんがうんと尖っているのが、エベレストの傘。たまに、小さな登山者たちが、傘を登ったり下りたりしているのが見られるよ。でも、その人たちをつまんじゃダメだよ。

　こっちは夏山の傘。小川が流れてるやつなんかは、ときどき小さな子どもたちが、きゃあきゃあ言いながら飛び込んだり、泳いだりしてるんだ。あはは、川釣りしているおじさんたちもいるね。あっ、こっちでは、バーベキューも！　いいなぁ、美味しそう。

　え？　ああ、そっちは……冬山の傘だね。ほら、スキーやスノボを楽しんでいる人たちがいるでしょ？　みんな上手だなぁ。

　うん？　あ、そこにあるのは、むやみに触っちゃダメなやつなんだって。なんかね、火山の傘だって店のおじさんが言ってた。うかつに開いたりしたら、ドドーン！　って大噴火しちまうぞ、って。

　ああ、でも、これなら大丈夫かも。最近はなんだか危ないらしいけど、もうしばらくは大丈夫だろうってさ。うん、綺麗でしょ？　富士山の傘だよ。

　え？　もう帰っちゃうの？　もっともっと、紹介したい傘がいっぱいあるのに……。

　ああ、お日様にも暈(かさ)がかかっちゃったのか。それなら、雨が降らないうちに、急いで帰った方がいいかもね。