恋の魔力はいと強し

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 購買の前は先程とは変わり、人が(まば)らになっていた。 「あ、コロッケパンあったー!」  購買のパンはボリュームがあり尚且つ安い。お目当ての物を見付けて急ぎ向かい、手にしようとした瞬間。 「おばちゃーん。このコロッケパンくださーい」 「あいよー。百三十円ね」 「あんがとー」  目の前で見てしまったやり取り。私の恋しいコロッケパンは、近くて遠い場所に去って行く。 「……」 「……」 「……ん」 「……え?」  私は置かれた状況に混乱した。何故か今、私の目の前にコロッケパンが差し出されている。 「えっと……」 「あげるよ。俺弁当あるからいいよ」 「え、何で……」  コロッケパンは上に上げられたり横に向かったり。私の視線はコロッケパンに釘付けだった。 「ふふっ。そんだけコロッケパンに食い付くように見られるとさあ。ねえ?」 「……あ! す、すみません!」  食い意地が張っていると思われたのだろう。私は無意識にコロッケパンを追い掛けていたのだ。  穴があったら入りたい、いあや、潜り込みたい。 「頂けません。大丈夫です。私もお弁当あるので……」 「いいよ。はい」 「いやいや」 「あ、そうだ。何でいつも牛乳飲んでるの? 給食じゃあるまいし」 「あ、それは女としての意地というか……って、何で知ってるんですか?」 「なんかよく目に入るからな。中等部の制服は高等部と色も違うし」  たしかにその通りである。高等部の制服は、ブレザーが濃紺色。中等部は小豆色。ネクタイとリボンは中等部高等部共通で学年を示す色は上から順に赤、緑、青である。
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