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藍
池月の伝説を教えてくれたのは、珈琲美学の常連さんだった。
今はCOFFEE WORKSに名前が変ったけど、
つい、『美学』って呼んでしまう。
高菜チャーハンと、
私にとっての人生で一番美味しい珈琲。
この両方を堪能するのが、
元気のスイッチ。
常連。
と、聞くと、
いつも同じ席でいつも同じメニューを頼む、店の番人。
というイメージがあったけど、
その人は空いている席を見つけてはひそやかに座り、
お店が混んでくると、するりと席をたつ。
黙っていても微笑んだような顔の、
私と同じか少し年下に見える男の子だった。
おそらく、相手も私を認識していた、のではないかと思う。
私も、それくらい頻繁に、一人でそこに通っていたから。
私は、高菜チャーハンと珈琲を頼み、
窓の近くの席で、ぼんやりと雨を眺めていた。
数時間前、西宮の実家から帰ってきたばかりだった。
双子の兄が亡くなり、通夜やら葬儀やら、
また兄に関する何やかを終え、
喪服のまま高速バス徳島駅前行に乗った。
明石海峡大橋を通って、
ようやく海を渡った時には、正直「やっと帰れる」と思った。
バスを降りるや、自分の部屋へ戻る気力もなく、
タクシーで珈琲美学に来たのだった。
「あのう・・冷めますよ」と、
その人は恐る恐る、初めて私に声をかけた。
ぼんやり、窓を見ていた私は、
ずいぶん前に、
高菜チャーハンと珈琲が運ばれて来たことに、
気づかなかったらしい。
よく修行したような、若いお坊さんのような響く低い声だった。
「あの・・大丈夫ですか?」
その人は、私にティッシュを差し出した。
どうやら、泣いていたらしい。
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