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モモは安彦にとってはじめての長編だったが、読み始めると主人公のモモから目が離せなくなり、時間を忘れて読みふけった。
幸福をもたらすモモと時間どろぼうの戦いに手に汗をにぎり、モモの勇気に感動した。
マンガばかり読んでいる息子が、片時も本を手放すことなく夢中になる姿に、母は驚いた。
安彦はモモを四日かけて読み終え、その後何回も書き直して感想文を書き上げた。
約束の日、昼下がりの土手でももは、安彦の感想文を熟読した。
「うん、すごくいいよ!やすひこ君が、モモのどこに感動して、何を感じたかが、ちゃんと伝わる!」
褒められた安彦は満更でもない。
「でも、もっと良くするなら、はじめに短く感想を書いて、つぎにその理由を……」
ももは安彦に説明しながら、赤鉛筆で書き込みをはじめた。
どんどん赤がふえてくるので、はじめ安彦はムッとしたが、文章の順番などを指摘どおりに変えると、安彦がいいたかったことが、はっきりとしてくる。
気がつけば二時間が過ぎ、空は夕暮れに染まっていた。
「この本、もう少し借りてていい?」
感想文を直すのが楽しくなった安彦は、もう少し手直しがしたかった。
「うん、いいよ」
「やった!ありがとう」
感想文がクラスのみんなの前で褒められたら、クラスメートが自分を見る目が変わるんじゃないかと想像した。
「でも、直してもらっただけじゃ、なんか悪いな……」
「いいよ。うちが好きでやったんやし……」
「だめ!こないだは吉田たちから助けてもらったし。なんかオレに頼みない?」
「たのみ?えー?」
そういうと、普段はいいたいことを言うももが、もじもじし始めた。
「なんだよ、なんでも言いなよ」
「うーん……」
安彦はももが遠慮していると感じた。
「わかった。たまごっちだろ」
はっとした目で安彦をみる。
「オレのはあげれないけど、お父さんに頼んでみる」
「ほんと?」
「お父さん来週仕事で東京にいくから、買ってきてもらう」
「えー!うれしい!」
安彦と出会ってからももは一番嬉しそうだ。
「そうだもも、もう少ししたら、盆踊りあるよね?」
「うん。八月の何日だったか、真ん中すぎ」
「その盆踊りに、たまごっちと本、持ってく」
「わかった!やすひこ君ありがとう!」
安彦は立ち上がると「じゃあ盆踊りね」といい、振り返りながら手をふった。
ももは安彦から見えなくなるまで、笑顔で手をふっていた。
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