40.光の幸せ

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 水曜日 「ねぇ、柊晴。いつも、ここだね」  この日も何度も唇を合わせ、確かめあった。再び、口付けようと顔を近づける俺に 「何も、聞かないのね」  光がそう言った。  確かにおかしいか。会えたことに、たった10分でも真っ直ぐ気持ちを返してくれることに満足していた。春香の計画は最初だけで、直ぐに止めるつもりだった。だから、ここから出る計画なんて無かった。 「それに、何も言わない。ここから、出ようとも。“付き合って”とかも」  考えてみたら、おかしい。ここで会って、ただキスをするだけなんて。 「出会いが、出会いだろ? その……軽いと……思われたくないしゆっくり知って貰って……それに……京也が居たら安心するだろ? 」  現実として4年前も、信用を得るために何度もここへ通った。光が吹き出した。 「そろそろ、いい? 本気だって。分かってるよね? 」  光が頷く。 「……来て? 俺んち。大事に……する。一生」 このタイミングで京也が戻って来た。分かってる、止めなきゃなんないことも。ネタばらしするとしても、今じゃない。時期尚早で……記憶を失くした事実も説明しなければならない。でないと、今までの事が台無しになる。光に今更変な刺激を与えてしまうかもしれない。  それでも。そう思う気持ちを飲み込んだ。  京也の所へ行くと 「光を止めてくれ」  最後の冷静さがそう言わせた。京也が静かに頷いた。外へと続くドアの前、ドアを開けて踏み出した。 カラン  ドアベルが鳴り、そのままドアが静かに閉まった。その振動にドアベルがもう一度、小さく、光のいる内側で鳴った。  外へ出ると足早に歩いた。
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