19.誰を

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 瞬きもせずに、こちらの反応を伺うように見て、もう一度彼は言った。 「俺は、彼女が好きです。あなたは? 」  彼の気持ちに偽りはなく、その気持ちに、俺も誤魔化す事など出来ない。 「俺も、光を愛してる」  彼に真っ直ぐにそう返した。俺の言葉に、伊東はようやく一つ瞬きをすると息を吐いて言った。 「あなたは、過去の残像を光さんに重ね、追い求めているだけじゃないんですか? 」  彼の言葉に、直ぐ様否定出来ない自分がいた。  分かっている。彼女はもういない。なのに……何時までもそれを求める俺は 諦められない俺は……光を苦しめていたのだろうか。俺が求めた未来は……過去の残像だったのだろうか。 「この程度で言い返せなくなるくらいなら、譲って貰えます? 彼女の未来(これから)は、俺に下さい」  彼の言葉に自分が黙ってしまっていたことに気づいた。  そして、その沈黙が彼の先程の言葉を肯定したことになっている事にも、なったのだ。
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