2193人が本棚に入れています
本棚に追加
――会社に入る前に、名前を呼ばれて立ち止まった。
振り向くと……受付の佐田美奈子。
ため息が出そうになるのをこらえ、彼女の言葉を待った。
「この前、奥さん来られましたよ」
……俺もその場に、いただろう。
「知ってる。それがどうかした? 」
「あの日から数日後にもう一度。……私に会いに来られましたよ」
佐田美奈子は、意味深な笑みを浮かべてそう言った。
数日後?佐田に会いに?
「知りたいですか? 」
「あのなぁ……」
今度は我慢も出来ずにため息が出た。
「えっとー……一度くらいお食事、ご一緒したいなって。いいですよね? 」
にっこりと笑って、俺の腕に自分の手を添えた。会社の前だ。少し体をずらして、彼女の手を外すと
「……分かった。今日」
「ええ、どうせなら週末……」
「今日! 」
「分かりましたぁ。でも、嬉しい! 」
彼女は俺の表情など気にする素振りもなく、浮かれたような足取りで先に会社へと入って行った。
光が、佐田に?その意味が全く分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!