19.誰を

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 彼女はスマホの手帳型ケースから、1枚の紙を取り出すと、俺に見せた。 「奥さんの字、でしょ? 」  そう言って、元通りにその紙を畳んでケースにしまった。確かに、光の字で光の連絡先が書かれていた。 「あなたの出張の日を教えてくれって言われたんですよね」 「……俺の? そんなの……」  わざわざ彼女に聞かなくても、光に伝えている。 「出張に行ってる日を、教えて欲しいんですって」  ……本当……に行ってる日を……?一瞬にして血の気が引くのが分かった。 知って、たのか……。行っていない日があることを。  頭を抱えてしばらく動く事が出来なかった。いつから、知っていたのだろう。光は。 「愛妻家だと思ってたのになぁ。それに、随分下手くそですね」 「そんなんじゃない」 「誰が信じると思います?  全く関係ない私だって信じないかな」  彼女の言う事は最もで 「いいんですか? 奥さん、“本当の出張の日”に、出て行く気なんじゃありませんか?」  衝撃だった。彼女に言われるまで、その事にまで頭が回っていなかった。そうだ、そうするつもりだ。  だから、彼女に……。俺の出張が本当かどうか、光にはもうどうでもいい事なのだ。俺の絶対に帰らない日に……俺の前から消える。そのつもりなのだ。  ガタッ  直ぐ様立ち上がった俺を佐田が止める。 「離せよ」 「“その日”は今日じゃありません。落ち着いて貰えます? 座って」  震える手で、俺を止める彼女の手を離しドカッと腰かけた。 「あなたが、早く帰れる日に前もって連絡するのはどうですか? 仲村部長」  彼女は嬉しそうにそう言った。それから…… 「だって、私……あなたが好きなんです」  そう言った。
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