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彼女はスマホの手帳型ケースから、1枚の紙を取り出すと、俺に見せた。
「奥さんの字、でしょ? 」
そう言って、元通りにその紙を畳んでケースにしまった。確かに、光の字で光の連絡先が書かれていた。
「あなたの出張の日を教えてくれって言われたんですよね」
「……俺の? そんなの……」
わざわざ彼女に聞かなくても、光に伝えている。
「本当に出張に行ってる日を、教えて欲しいんですって」
……本当……に行ってる日を……?一瞬にして血の気が引くのが分かった。
知って、たのか……。行っていない日があることを。
頭を抱えてしばらく動く事が出来なかった。いつから、知っていたのだろう。光は。
「愛妻家だと思ってたのになぁ。それに、随分下手くそですね」
「そんなんじゃない」
「誰が信じると思います? 全く関係ない私だって信じないかな」
彼女の言う事は最もで
「いいんですか? 奥さん、“本当の出張の日”に、出て行く気なんじゃありませんか?」
衝撃だった。彼女に言われるまで、その事にまで頭が回っていなかった。そうだ、そうするつもりだ。
だから、彼女に……。俺の出張が本当かどうか、光にはもうどうでもいい事なのだ。俺の絶対に帰らない日に……俺の前から消える。そのつもりなのだ。
ガタッ
直ぐ様立ち上がった俺を佐田が止める。
「離せよ」
「“その日”は今日じゃありません。落ち着いて貰えます? 座って」
震える手で、俺を止める彼女の手を離しドカッと腰かけた。
「あなたが、早く帰れる日に前もって連絡するのはどうですか? 仲村部長」
彼女は嬉しそうにそう言った。それから……
「だって、私……あなたが好きなんです」
そう言った。
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