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この日、柊晴はいつものように私に飛び付く様に駆け寄ることもなかった。
「この前……いや、いいんだ」
そう言って、俯いた。再び顔を上げると
「来てくれた。今日も。だから、いいんだ」
そう言った。
京也さんの方を向いて、“10分”そう言わなかった。分かって、いるんだ。柊晴にも。ドアの向こうに私が行けなかったことで、私達には先がないことを。
柊晴の代わりに、京也さんが言った。
「今日は、他の客はこないよ。納得行くまで話すといい」
そう言って奥へと入って行った。
「……俺の事……」
「うん、ごめんね、柊晴」
「……待つよ。だって、先の事は……」
「いいえ、分かってるの、先の事が」
「俺の事は、愛せないの? 」
「……いいえ、私はあなたの事を愛する。今じゃなく、先……未来で。だけどね、あなたが私を愛さなくなるの」
「あるわけないいだろ! そんな事! 」
柊晴が動くと魅惑的な香りが鼻先をくすぐる。脳をしびれさせ、胸が締め付けられる。その奥に、ほんの少しの甘い香り。だけど、混ざり合う二つの香りが……いい香りだと、そう思う私は、もうとっくに決心がついていたのだと思う。
「間違わないで。もう、二度と。あなたの私への気持ちは、きっと……愛ではないと思う。もう出会ってるはずよ、それに、気づけば……」
最後まで聞く事もせず、柊晴は私を抱き締めた。
強く……。
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