20.過去との約束

6/10
前へ
/440ページ
次へ
「あなたって、いい香りね」 「ああ、好きなんだ。これ。光は? 香水はつけないの? 」 「この前買ったんだけど……」 「へぇ、どんなの? 」  バッグから、アトマイザーを出して渡した。あの日、未来でも柊晴が、手にしてた。永遠(エタニティ)の香り。 「今日、客こないって言うから、いいかな」  そう言って控えめに自分の手首につけた。それを私の手首に合わせる 「今日は、お揃いの匂いだな」 「あ、でも……あなたの香りが……消え……」 「これ、めっちゃ好き」  私の手首から香りを嗅いで、柊晴がそう言った。そのまま、手首(そこ)に口づけた。 「忘れないで」  唇を離すとそう言った。 「俺との、約束」 「ええ、あなたもね、柊晴」  そう言って笑った。  最後のドアベルも、優しく、静かに鳴った。ドアの閉まる余韻を背に、私は私の時を歩き出した。  路地を抜けると街は賑やかでゆっくりゆっくり、味わうように歩いた。マンションへ着くと、柊晴が出迎えてくれた。 「お帰り」  そう言って微笑む。 「ただいま」  そう言って、私も微笑んだ。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2189人が本棚に入れています
本棚に追加