20.過去との約束

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 伊東くんの手の下から、自分の手を引き抜くと、今度は彼の手の上に自分の手を置いた。 「そうね、わからないわね。だけど……あなたと行くかどうかを決めるのは、“今の”私なの。だから……“今の”私の気持ちを言うわね」 「……わかってますよ」  伊東くんは、そう言って息を吐くと、空を仰いだ。 「私は“今の”柊晴を愛してる」  伊東くんが左手を、伊東くんの右手に重ねていた私の手に、ポンとおいた。 「分かって、ますよ。僕も“今の”あなたが好きなんでね」  そう言って、いつもの笑顔で、笑った。  ……伊東くんと〈柊晴〉は似ている。そう思ったのは、いつだったか。ほんと、凄く似ている。強気で、真っ直ぐで、形振り構わず気持ちを伝えてくれる。  それなのに、どこか繊細で、とても優しい。ふわりと鼻先に届く香り。  罪深いほどに、優しい……香り。  きっと、これから先もこの香りがどこかでする度に、彼を思い出す。  彼の思惑通りに。そして、その度に、こうやって胸を擽られる。  ……ありがとう。そう思った。  私は柊晴を愛してる。それは……“今の”柊晴だ。 『諦めない』  一番欲しい言葉はその相手からはなかった。私が、愛してるいるのは……。  変わるのだろうか、気持ちは。あるのだろうか、柊晴が私を愛することが。未来(さき)には、そんな可能性もあるのだろうか。  あったとしても……私達は選ばなかった。私達には“未来”は……なかった。
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