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沈黙を破ったのは、車のクラクション。ハッとして道をあけた。
同時に……何を言おうとかを忘れ、不思議な感覚だけが残った。
「はは、道の真ん中だったな」
「本当、何してるのかしら」
そう言って笑い合った。
「気をつけてね」
「ああ」
そう言って、別れ際
「……早く、帰るから」
柊晴が、そう言った。何かを悟られた気がしたけれど……。
早く帰る?出張から……よね?佐田さんからのメッセージをもう一度確認し会社へと向かった。
……あれ?
私の左手から、ほのかに魅惑的な香り……さっき、柊晴の髪を梳いた時か。手先についた香りなんて、直ぐに消えてしまう。
手を洗いたくないな。せめて、もう少しだけ。なんて、いい香りなんだろう。私はこの香りが好きだ。
幸せで、暖かくて、愛しくて……それでいて……とても……悲しい。
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