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……佐田さんだ。
「もしもし? 佐田ですけど」
「ええ」
「逃げる準備は万端ですか? 」
随分な物言いに
「あのねぇ」
「だって、ずるくありません? 結婚してるのに、普通そんな別れ方、します? 」
「……時間が必要で……それに、あなたにも都合がいいでしょ、私が居ない方が」
「それは、そうですけど……逃げるだけなんだもん。情けない」
「あ、あなたには分からないわよ」
「ええ、分かりませんね。だって、本音を言わないんですもん。それで分かれって? 何ですか、それ。相手の気持ち? 馬鹿ばっかり。自分を守ってるだけでしょ? 」
「あなたに関係ないでしょ」
「関係ありませんねぇ。だけど、巻き込んだのは、あなたでしょ? 」
そう言われ何も言い返せない。その通りだ。
「聞かせてもらえます? 本音。彼を……愛してるの? それとも、いらないの? 」
「……愛してる」
「じゃあ、なんで? 」
「彼の幸せは……」
私の元には……私達に、未来は……ない。
「ですって、聞きました? ちょっ、」
佐田さんの声、それから……
「光! 動くな! そこから! 絶対だ」
聞こえて来たのは、佐田さんの声ではなく……柊晴の声。
荷物を掴むと、駆け出した。鍵をかけて、その鍵はドアポケットへ。エントランスを抜け、タクシーに手を上げた。
お願い、早く!
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