22.過去へ

5/10
前へ
/440ページ
次へ
「……3年……」  以前、柊晴が言ったようにそう返した。少し考える素振りをして 「無理」  柊晴は低い声でそう言った。 「そんなの……」 「誕生日。光の誕生日に、帰って来い。それから……これ」  そう言って、キャッシュカードを渡してくる。 「いらないって……この前も」 「駄目だ。受け取らないなら、行かせない」  そう言われて、仕方なく受け取った。 「月に1回は必ず下ろせ。出ないと、離婚しない。この約束だけは守って貰う」 「なら、今……離婚」 「光。力で降ろそうか? 」 「……分かった」 「約束だ。帰って来い」  そう言って、窓から小指を出す。絡めた指。守らなかった約束。再びの約束。なのに、 「信じてる」  柊晴はそう言った。 「分かった」 「すみません運転手さん、行って下さい」  柊晴がそう言った。運転手は、私と柊晴を交互に見て、走り出した。  駅から電車に揺られ……私は祖母の家へと向かった。祖母宅へ着く頃には胃痛は幾分、治まっていた。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2189人が本棚に入れています
本棚に追加