24.過去の筆跡

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 新生活は、生活の基盤を整える為にしばらくはバタバタとしていた。  仕事も探さないといけないけれど、右も左も分からない、誰一人として知り合いのいない場所で、箸1本から探さないといけない生活だった。貯金もあるし、柊晴のカードはあれ以来使ってない。再び一人になっただけの事だ。  ようやく、一先ずの生活が整って、段ボールの中を片付けた。同時に頭の中も整理しようと思えた頃には、ここへ来て1ヶ月近くが経とうとしていた。  スマホは時々鳴ったけれど、相手を確認するに留めた。  ──季節は、変わろうとしていた。  近くの満開の桜が咲く川辺を、一人で歩く。  またこの季節が来た。満開の桜の下、見上げる空一杯の淡い花は、何度見ても胸を震わせる。  何度見ても……美しすぎて、悲しくもなる。散って行くのを知っているから。
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