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過去の手帳に記された、たった二行の記憶を必死に辿った。
“春香”の文字
“柊晴”の文字
“京也”の文字
“プロポーズされた日”
“式場を見に行った日”
“式場を予約した日”
“入籍する日が決まった”
“まだ1年近くもあるのに婚姻届は今日二人で書いた”
その言葉を日記に見つけると、思い出した物があった。バッグを掴むと、ひっくり返すように取り出した。クリアファイルから、それを震える手で広げた。
書かれた日付は“入籍する日”だった。
それは、私と柊晴の……“結婚記念日”だ。
仕組まれたものだった。それは……いつから?
共犯者は……この婚姻届が出せなかったのは“私と柊晴が結婚してるから”
『離婚届不受理申出してる。だから、出しても受理されない』
……何の為に?……何の?それは“離婚したくない”から。だとしたら、なぜ“離婚したくない”のか。それが分かったら……こっちの、これは…必要ない。もう一枚の薄い紙を取り出した。
……長くしまわれていた婚姻届の方に染み付いた……愛しい、愛しい香り。共犯者の甘い甘い香りとシンクロして
あんなにも……優しい香りになった。
分かってたじゃない、私の心は、いい香りだって。私の記憶は優しい香りだって、知っていたじゃない。
震える胸が、それを真実だと伝えてくれる。
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